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《ETAJIMA Fan Info》
人工知能や,モノのインターネット=IoT(Internet of Things)などの最新技術を使い,県内企業が新たな付加価値の創出や生産性効率化に取り組めるよう,技術やノウハウを持つ県内外の企業や人材を呼び込み,産業・地域課題の解決をテーマとして共創で試行錯誤できる実証実験の場――。
それが,広島県が2018年5月から始めた「ひろしまサンドボックス」です。
3年間で10億円規模の予算が投入される「ひろしまサンドボックス」では,公募から選ばれた9つの実証プロジェクトが現在進行中。そのなかのひとつ「スマートかき養殖IoTプラットフォーム」は,江田島市のかき養殖が実証実験の場として選ばれています。
江田島市の,かき養殖の採苗(海中に入れたホタテ貝の貝殻に,かきの幼生を付着させる)では近年,ばらつきや低下が発生。採苗不良の傾向は平成以降続いており,年によっては他県から種苗購入のため多額の投資が必要となり,産業全体の存続にかかわる問題となっています。
今回のプロジェクト「スマートかき養殖IoTプラットフォーム」では,東京大学のほか,シャープ,NTTドコモなど多くの企業と江田島市,漁協が,今まで人間の経験と勘で行われていた採苗を,人工知能やIoTにより,データに裏付けられた最適な養殖手法の確立を目指すべく,2018年12月から実証実験を行っています。
能美町の旧高田小学校を改修した,高田交流プラザ。
ここに,「スマートかき養殖IoTプラットフォーム」のラボ(研究室)があります。
ラボは,旧校舎の教室を利用。2019年の6月から8月にかけて,ここで採取データの研究が行われました。
入口の「実験ラボ不在中」の案内のとおり,ラボは通常,一般開放されておりません。
「iOstrea(アイオストレア)」は,江田島市のかき養殖における課題解決のために,10団体の産学官民によって結成されたチーム名です。
オストレアはラテン語で,かき。「かきを愛する」ということで,「アイ(愛)オストレア」。ひろしま江田島のかきを愛するチームとして名づけられました。ロゴの中の「e」には江田島市の市章が入っています。
江田島市と内能美漁業協同組合,平田水産は,広島水産業の活性化活動・実験フィールド協力や支援を担当。
広島県立総合技術研究所は協力支援パートナーとして,今回のプロジェクトでかき養殖,水産技術に関する助言にあたります。
そして,ドローンによる測量と画像処理解析を行う,ルーチェサーチ株式会社は,海色変化を検知するドローンで,かきいかだの周辺海上を空撮。画像から産卵時期の海の白濁を検出,かきの幼生が多く生息する場所や海流を,撮影データから解析して採苗支援を行います。
中国電力株式会社と,株式会社セシルリサーチは,臨海発電所で海水配管内に大量発生する付着生物の調査研究実績があり,「スマートかき養殖IoTプラットフォーム」では,かき幼生検出技術を担当しています。
株式会社セシルリサーチで使う用具がこちら。海上を浮遊しているかきの幼生を検出するために,海中にネットを入れて,かきの産卵時期に稚貝を採取する装置です。
株式会社NTTドコモは,情報通信技術と海洋観測水上ブイ技術で参加。
このICTブイ(ICTは情報通信技術=Information and Communication Technologyの略語)は,乾電池を内蔵。各種センサーを接続して海面に浮かべ,かきいかだ付近の水温や塩分濃度などを測定します。
また,東京大学は,かきいかだに設置した水中監視センサーで,水温やクロロフィル(植物プランクトンで,かきのえさとなる)量を計測。それらのデータ通信を行うネットワークを構築しています。
ケーブル状の水温センサーには太陽電池で電力供給。
採取データの通信に使われる無線ネットワーク機器です。
ICTブイや水中監視センサー,ドローンによる海上観測画像結果などから得られたデータを,人工知能で高速分析。漁業者の端末へ,かき養殖に必要な情報が送られます。
シャープ株式会社は,プライベートLTEのネットワークから,かき生産者が各種情報を受け取るデータ端末のスマートフォン提供と,無線技術の開発に携わります。
データ端末は,海水温,塩分濃度等の海洋情報をアプリ「ウミミル」で観ることができます。
(下の画像はサンプルです)
江田島での実証実験開始から1年を経過し,センシング(センサーなどを使い様々な情報を計測,数値化する技術)の手法を確立。2020年以降は,蓄積したデータを利用して情報配信できそうな段階まで来ているとのことです。
今までは,海面の様子や時期から長年の勘と経験で見当をつけて,かきいかだまで漁船で調べにいっていたのを,これからは端末ひとつで簡単に確認できる――。生産者の高齢化や,勘頼みの従来手法では対応が難しい近年の採苗不良などの問題を,最先端の技術が解決してくれるかもしれません。
明るい未来への入口は,すぐそこまで来ているのかも,と感じさせられます。
この「スマートかき養殖IoTプラットフォーム」は,出身が江田島,または江田島にゆかりのある人たちが,不思議な縁で集まったプロジェクトでもあります。
東京大学大学院の中尾教授は広島県出身で,祖父は江田島の旧海軍兵学校で教官の経験をお持ちです。シャープ通信事業本部の角田さんは実家が能美島で,内能美漁業協同組合に先輩がおられたそうです。また,ドコモCS中国の中島さんは,広島生まれの広島育ち。釣りが好きで,江田島にはフェリーで切串港まで来て,釣りをしたこともあり,「プロジェクトのメンバーには,人のつながりという点で,何かしら江田島の共通項があった」と,今回のプロジェクトの感想を述べられています。
江田島市のかき養殖に,インターネット時代の最新技術がつながる・あつまる「スマートかき養殖IoTプラットフォーム事業」。江田島に集結した熱い想いが動かしていく未来に,期待が高まります!
(2019年12月取材)