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《ETAJIMA Fan Info》
2019年6月末、能美町中町のシーサイド温泉のうみが閉館しました。
同町の能美海上ロッジが2017年4月から老朽化で休館したことを受けて、江田島市では新たな宿泊観光施設の整備に着手。「江田島市新宿泊施設整備事業」として民間事業者を公募。東京で不動産業などを展開する株式会社レーサムに決定し、2020年現在、シーサイド温泉のうみ跡地にて新宿泊施設「海風(なみ)のリゾート 江田島」(仮称)を建設中。開業は2021年7月の予定です。
※新宿泊施設名称は「江田島荘」に決定しました。以下の記事内容は取材時点での名称を使用しております。
(新宿泊施設完成予想図)
開業までの拠点には、旧・中町保育園が準備室として使われています。
2019年5月に閉園した中町保育園。現在は開業準備室、その後も新宿泊施設の関連施設として機能する予定です。
宿泊施設併設のレストランについて、これまでの経緯や進展などを、小竹隼也(こたけ じゅんや)シェフ、外山和己(とやま かずき)スーシェフから伺いました。
(聞き手:江田島ファンネット、進行:江田島市政策推進課・川上さん)
(開業準備室前にて。写真左から外山さん、小竹さん、川上さん。江田島市に新しい潮流を生みだす三傑ここにあり!開業準備中、多忙の合間を縫って、今回の取材に応じていただきました)
※コロナウイルス感染防止に留意の上で、各写真は撮影のため一時的にマスクを外しています。
(新宿泊施設のシェフ・小竹さん。江田島市にかける思いを、時には手ぶりを交えて、熱く語っていただきました)
ひろしまシェフ・コンクールから始まった江田島市との出会い
広島の食文化の発展とブランドイメージの向上を図るため、全国で活躍している若手料理人を対象とした「ひろしまシェフ・コンクール」。成績優秀者は、翌年から海外のレストラン等で修行――。
栄えある第1回成績優秀者の1人に小竹さんが選ばれました。
(https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/77/hirosima-chef2.html)
小竹「まず江田島に興味を持った経緯からですが、僕は2018年までフランスのレストランで働いていました。そこで3年間修行したお店の周辺が、江田島の雰囲気にとても似ていたんです」
広島県人でありながら、それまで江田島に来たのは小学生の時に「たった一度だけ」と小竹さん。
「学生の時の、野外活動の時でしたね。なので、実際に食材がどういうものがあるのかとか、カキくらいしか分からなかったんです」
2019年から、小竹さんは江田島に実際に住んで、江田島市民になって、どういった食材があるかなど、探求してきたところなのだそうです。
川上「宿泊施設を江田島市に作ります、という誘致が決まって、そこからシェフとかどうしようかという話になったんですよ。そんな時、小竹さんと縁がありました。広島県主催のシェフ・コンクールが毎年あるんですが、その第1回最優秀者が小竹さんでした」
「そのシェフが江田島にいるらしい」との情報をもとに、レーサムの担当者が交渉に乗り出し、後に小竹さんは、シェフに抜擢されました。
小竹「レーサムの副社長の飯塚さんの、このプロジェクトにかける思いと、僕が江田島でやっていきたいというものがちょうど一致したので、決意したという流れです」(株式会社レーサムの飯塚副社長は、新宿泊施設運営会社である株式会社海風(なみ)の社長)
川上「ちなみに、どんなところが一致したんでしょう?」
小竹「やっぱり、島の中にある宝物、例えばそれは食材であったり、人材であったりにしろ、歴史や文化といった、その一つ一つを掘り出していくきっかけが食からになればいいと思いました」
川上「宿泊施設としては、地域と一緒に成長するというのがコンセプトで。食はその、きっかけとしてですね」
――小竹さんと外山さんの、お二人の出会いについて教えていただけますでしょうか。
小竹「僕は「ひろしまシェフ・コンクール」第1回の卒業生。
外山が第5回(https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/77/hiroshima-chef5-wasyoku4.html)の卒業生、成績優秀者です。だいたい50名くらいの応募者から3名選ばれて、その3名が最大3年間、広島県が向こうでの滞在費とか研修費とか、上限はあるんですが諸々をバックアップしてくれます」
川上「もともと3年なんですか?研修は」
小竹「基本は1年間です。でもその2年目からは就労ビザなどが取得できた場合は、滞在しても大丈夫です。僕の場合はそういうのがつながって、3年間、いたんです」
川上「どういうお店でしたっけ? 2つ星レストランとか?」
小竹「2つ星レストランの、ラ・グルヌイエール。日本語に訳すと、カエルの家っていう意味です。その店に、外山も研修で入ったんです。ラ・グルヌイエールで研修をしたっていうのを聞いて、あ、だったら……と。それで話をして、一緒にやらないかと僕が声をかけて。今回一緒にやることになったんです」
――勤めた時期としては、いつ頃になりますか?
小竹「僕は2015年から2018年までです。3年間、その同じ店で働いていました」
外山「僕は2019年から。今年の2020年3月末に、帰国しました」
――お二人の働いていた時期は、一緒ではないんですね。
小竹「重なってはないです」
――時期は違うけど、同じように、コンクールの卒業生として修行して、縁があったということでしょうか。
小竹「基本的には、シェフ・コンクールに受かって、次の年くらいにはフランスに渡るんですけど、3軒から4軒、回るんですよ。3軒から4軒で、1年間研修するという形なんですけど。僕はやっぱり3年間、しっかりとビザももらって、3年間フルで向こうで働きたいという思いがあったんで、1軒しか回ってないです」
ちなみにひろしまシェフ・コンクールでは、成績優秀者が海外での修行を終えて帰国後に、期間限定レストランなどのイベントも開催している。
小竹「去年は、宮島の大聖院(だいじょういん)という寺院に、師であるアレクサンドル・ゴチエ シェフが広島にわざわざ来てくれて、2日間イベントを行いました」
(「宮島 大聖院で期間限定レストランを開催!」
県ホームページ記事…https://www.pref.hiroshima.lg.jp/soshiki/77/kikangentei2019.html)
コロナ禍を打ち破る、小竹シェフのアイデア・思いとは
――現在、コロナの影響で、この江田島でも食や宿泊の面で難しくなっている状況があります。そこから打破していこうという、思いなどがあれば聞かせていただけますか。
小竹「今まで通り、僕ら料理人はお皿の上で料理を仕上げるのが基本なのですが、これからは、それだけでなく、他のことにもっと取り組んでみたい。いま進行中なんですけど、江田島のものを使っての新商品の開発とか生産者と一緒に食材の魅力を訴求する工夫とか、そういった部分もやっていくことで江田島に多くの人を呼び込めたら…と思いますね」
川上「おいしいものを作る、と言うことですよね」
小竹「そうですよね」
――お二人は、今まで江田島という場所は、大人になってから知るようになったとか、そういう感じだったのでしょうか。
小竹「そうですね。フランスから帰ってきて、江田島を知りましたね。だからそれまで、18歳から料理をしてきて、フランスから帰ってきて28歳くらいかな。その10年間はレストランとか宿泊施設の現場で料理してたんですけど。特に江田島の食材とかは、手にして料理したという記憶は正直無かったですね。失礼ですけど……。ただ、全てのものの見方が、フランスでの修行経験から変わりましたね」
「生産者との関わりを大切にしたい」スーシェフ・外山さんの思い
(新宿泊施設・スーシェフの外山さん。地元生産者との関わりを大切にする学びの姿勢が印象的でした)
――外山さんに、お話を伺います。小竹さんと一緒にお仕事をすることについて、思いなどありましたらお聞かせください。
外山「まず、新宿泊施設で働くことになった経緯ですが、僕がちょうど今年3月末までフランスで修行してまして。コロナの影響で、ちょっと早めに帰国することになったんです。それまでは、日本にいるときは、クラシックなフランス料理店にずっと勤めてました。そこでフランス料理の基礎を学びました」
コンクールを経て、フランスに渡り、日本にはない各地方のレストランを回った結果、いろんな表現、地方色が、とても勉強になったと外山さん。「地方でやりたい」との思いが強かったのも理由だった。
「僕は、フランスから帰ってきて、さあ日本で何をするか、といったときに、小竹さんから話が来ました。江田島で新しく立ち上げる宿泊施設ってことで、いろんな生産者さんとかを回ってきているというので。今度はもっと自分で表現する場っていうところがほしい。そういう思いがありました」
その中でやはり、生産者と直接、やりとりして、生産者の思いとかもすごく知りたかった、と外山さんは語る。
外山「立ち上げって言うことで、ゼロから関われる。僕が好きにやりたいことにマッチしていると思って。そこで小竹さんと一緒にやりたいと思いました」
――地方でやりたいという思い。そして生産者からの思いを聞きたい。この2つがあったわけですね。そこに小竹さんの存在があったと。
外山「そうですね。生産者が現場で、どういう思いでその食材を作っているかっていうのは、今まで東京でやってきていても、なかなか分からないことなんです」
食材は全国から届くかもしれないが、生産者の現場を知ってるわけではない。その人がどんな思いでニワトリを育てているか。卵はどんなふうに扱ってて、とか。野菜を育てている人が毎日どんな風に仕事をしてるのか。知らないことが多かった。
外山「野菜を一生懸命育てていることひとつとっても、僕は全然知らなかったです。なので、そういうところをすごく大事にしたいなというのはありますね。小竹さんは生産者とのコミュニケーションをとって、とても密にやってるっていうのは伝わってきたので。そういうところも学びたいと思いましたし。その思いが非常に強かったですね」
生産者とのコミュニケーションの実際
――では、今まで出会った生産者の方々で、印象に残った方がおられたら、お話しいただけますか。
外山「沖美町三吉のJさんという方が、小竹さんから「面白い方だ」と紹介され、一緒にお訪ねしました。そのあと一人でも行ってみたら、急きょ伺ったにも関わらず、いろんな畑を1時間半かけて全部見せていただいて、ここはどんな作物が育つとか、この時期はこれがうまいんだとかというのを熱心に語ってくださりました」
地鶏生産者のSさんのところへ買いつけに行ったときには、こういうエピソードがあったとか。
外山「できるだけいいものをと、Sさんが卵を一個一個選んで目の前で磨いて大切に扱っているのを見て、大事にしなきゃいけないと強く感じました」
――今まで、見えなかった部分が見えてくる。そういうところですね。
外山「そうですね。そういうところはやっぱり、東京でやってきて、わからなかったことなので。これからも生産者とのコミュニケーションというのはやっていきたいですし。食材に対する見方、料理に対する見方がすごく変わってきたと思います」
――お話のなかで、東京が出てきましたが、外山さんのご出身は東京なんですね。
外山「そうですね」
――小竹さんは、広島ですか。
小竹「そうです」
作風の違う2人の料理が、江田島市の食に新しい潮流をもたらす
川上「2人のタイプが全然違うらしいと、聞いています」
小竹「僕は創作系が得意です。ベースはフランス料理なんですけど、皆さんが知るクラシックなものでもないし、そこの伝え方が難しいですね。和食や中華かといったらそうでもない。僕らしい料理ができる場所は間違いなく江田島です。素材と直接向き合う生産者と、コミュニケーションをとることで、できあがっていくのが僕の料理なんです。単に食材を集めて、それを今までの技術と経験で仕上げる料理では終わらせたくないんですよね。生産者とコミュニケーションをとり、口に運ばれるまでのストーリーを五感全てで体感してもらえるような料理を、作りたいですね」
川上「外山さんは、オーソドックスな方法でしょうか」
外山「クラシックですね。まさにフランス料理といえば、っていうような料理です」
――2人は、創作系と、伝統的なものといいますか。違うものを持っているからこそ、新しいものが生まれる、そういう感じがありますね。開業に向けて、現在はフレンチというジャンルに捉われない「江田島ならではの料理とスタイル」を模索中ということで、これからの展開を楽しみにしています。本日はご多用のなか、取材に応じていただき、ありがとうございました。
[江田島ファンネット・編集後記]
この江田島市から、新しいこと・ものが生まれていくという瞬間に立ち会えて、とてもわくわくしています。2人のシェフの出会いとその熱い意志が、語られる言葉からひしひしと伝わってくる、貴重な取材でした。
見渡せば江田島市は、三高港旅客ターミナル内の農作物販売所をはじめ、市内に点在する産直市場など、生産者が近い環境だということに、両氏の話から改めて気づかされました。ずっと住み続けていると気がつきにくい、見えなくなっている日常の光景に、未来のタネがあるのだと。
2020年は新型コロナウイルスの影響で、世界的にも先の見通せない不安な状況が続いています。
しかし、小竹さん、外山さんの江田島市へかける情熱が、先の見えない世界に一条の光をもたらしてくれるのではないでしょうか。
ひろしまシェフ・コンクールが結びつけた2人の達人と、来年夏オープンを目指して建設中の「海風(なみ)のリゾート 江田島」(仮称)。この先、この地で、どんな新しいこと・楽しいことが生みだされるのか、期待が高まります!
(取材日:2020年8月19日)