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《ETAJIMA Fan Info》
柿浦交差点(大柿町)の手前にさしかかると,見慣れた光景が近づいてくる。
朝日に照らされた「山野鮮魚店」のひさしの下には,入れかわり立ちかわり,客が訪れる。
店主と椅子に差し向かいで座り,話をしている日もある。
いつも賑わっていて,客が途切れない店とは,どんなところなのだろう――。
接客が落ち着いた昼前に,店主に声をかけ,今回の取材をご快諾いただいた。
77歳の和田さん。年齢を感じさせない快活さで,話していて楽しくなる方でした。
多くのお客さんが和田さんに会いに来られるのが,よく分かります。
母から継いだ「山野鮮魚店」は,柿浦に店を構えてから50年ほどになる。
営業時間は朝7時すぎから,昼はだいたい1時ぐらいまで。
先代の母が店を構える前に使っていた,行商の台車。
ショーケースのカワハギとアジ(昼前に訪れたため,既に他は売れてしまった)。
ナマコとコイワシが人気で,特にコイワシは,よく売れるという。
「8時ぐらいじゃね。その時間が一番(お客さんが来られるのが)多いんよ」
仕入れは,母の代には大原から漁師が持ってきてくれていたが,現在は呉市の中央卸売市場に電話で注文して開店前に運んでもらう。
最近は不漁続きで,魚が以前に比べてなかなか入らないそうだ。
入口そばにあるパイプ椅子と座布団。向かいに置かれた丸椅子にも座布団がある。
「もっと椅子を増やせって言う人もおるんじゃけどね,これ以上そんなにできんわいね」と笑う和田さん。
「(店に来たら)みんな,いろんな話をしてね。近所の話。病気の話。薬の話。それを,ああやったらええね,こうやったらええねと。畑が,はあ(たくさん)草が生えとるとかね。誰も(草を刈りに)取りに来んでしょう。いま空き家が多いから。じゃけん大変なんよとかね。うちは愚痴を言いにくるところ。じゃけど,話すと元気になるから」
入れかわり立ちかわり客が訪れる,歓談が尽きない店という印象は――実際に訪れてみると,外から見ているよりも事情はやや違っていた。
店には,なじみの客,常連さんが殆どで,和田さんと同じく高齢の人も多い。
年月が経てば,自身の不調もあろうし,周辺の環境も変わってくる。
楽しいことだけではなく,悩みがついつい口に出てしまうのは当然だろう。
「(話が済んだら)やあれ,一年分笑うたわい言うてね,帰る人もおる。そりゃあ面白おかしく言わにゃあ,しょうがないじゃない。腹が立つことがあっても,ねえ」
山野鮮魚店では,多い日で5,6件の電話注文が入り,閉店後の午後から配達に出かけている。
店頭と同じように,当日届いた新鮮な魚を下ごしらえして,足が悪くて店に来られない方などに届けている。
「持ってきてもらうから,こうして魚が食べられる。あんたのところの魚じゃけん食べられる」と,そういう声を励みに,配達は約1キロ先の北迫地区にも及ぶ。
取材中にも,店の前で車がとまり,常連客と思しき婦人が仕入れの魚を聞いてくる。
遠くの切串から来られる方もいると聞く。
青果店,パン屋,たこ焼き屋,精肉店など,かつての柿浦商店街には人と店が集まっていた。
商品を買うためだけに行くのではなく,その店に行くのが楽しみとなっていた。人と人との温かいふれあいにあふれた時代だった。
昭和から平成,令和となった今では,近隣の保育園,小学校も閉園,閉校し,商店街の店舗も減ってしまった。
そのような移り変わりのなかで,柿浦で店を続けている和田さんは,この地で暮らす人たちにとって,かけがえのない心のよりどころでもある。
コロナ禍で遠方からの移動が制限される前までは,盆や正月に柿浦に戻ってきて,久しぶりに店に会いに来てくれた方もいたという。
江田島ファンネットが,故郷の江田島市を離れて都市部に暮らす方向けに情報を発信していることについて,お話をうかがうと,
「(こちらに家があるんじゃったら)帰ってきて生活してほしいね。(町と比べたら)不便なところじゃけどね」と和田さん。
店内に飾られた写真は,閉校となった柿浦小学校で,敬老会の手伝いで飾りつけをしたときのお礼。
仕事以外に地元のために尽くされ,参加者の写真に笑顔があるのも,和田さんのお人柄によるものでしょう。
高校野球の強豪校で頑張るお孫さんをデザインしたオリジナルカレンダー。写真は中学生の時に撮影したものだそうですが,既にこの時からフォームが決まっていて,写真映えします。
和田さんが毎年お参りに行っている広島護国神社の熊手。この恵比寿様,大黒様と,下に見える薬師窯の置物を見ていると,笑顔のあるところには笑顔が集まるように感じました。
見慣れた光景に存在する,いつもの店,いつもの人たち――。
その人がいるから,会いに行くために,店へお客さんが訪れる。
ふるさとがあることの大切さを,あらためて振り返るような,貴重な取材でした。
(2021年11月取材)
【店舗情報】
山野鮮魚店
住所:〒737-2211広島県江田島市大柿町柿浦2346
営業時間:午前7時ごろ~午後1時ごろまで(魚が無くなれば早くに終了)
定休日:水,日,祝日(※シケ,台風など天候不良で仕入れが無いときも休み)