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《ETAJIMA Fan Info》
※表題および下記のクラウドファンディングは2022年1月31日に募集を終了しました。多くの皆様からのご支援ありがとうございました。下記クラウドファンディングページでは、今後もプロジェクトの進捗報告が行われる予定です。
施設名は“Kirikushi Coastal Village”。
江田島町切串に,人々が交流できるスポット,事業者同士も相乗効果を生める複合施設を,空き家の利活用で実現させる。
江田島市の切串エリアを盛り上げたいという意味で切串というワードを入れ,海の近くのお店でみんなで集い,1つの村のように多くの方々に関わっていただきたいという思いを込めて命名――。
(クラウドファンディングリンク先→https://camp-fire.jp/projects/view/506976)
目標金額300万円のこのプロジェクトは2021年12月18日から開始。年が明けて,1月14日時点で90万円に近付きつつある。
仕掛け人である江田島市地域おこし協力隊・空き家活用ディレクターの蛇草さんに,お話を伺った。
▼江田島市地域おこし協力隊・空き家活用ディレクター 蛇草孝介(はぐさ こうすけ)さん
東京でデザインの専門学校を卒業後,都内の勤務先で店舗やオフィスのデザインに携わる。2021年4月に江田島市へ移住,地域おこし協力隊・空き家活用ディレクターとして活躍中。
借りられる空き家が見つからなかった
「今回のプロジェクトは空き家の活用って形になるんですが,実は僕自身が最初,賃貸の空き家に住めなかったんですね」
江田島市内に移住を考えた時に,現状として,借りられる空き家がなかなか見つからないという問題がある。
購入可能な物件もそれほど多くなく,借りられる空き家はさらに少ない。資金面で,移住実現の壁となる。
蛇草さん自身も江田島市への移住の際,条件に合う賃貸物件がなかなか見つからなかった。ネットでこまめに物件を探してようやく今の住まいに巡りあうことができた。
それらの体験は,住める空き家,借りられる物件を増やしたいというプロジェクト構想の原点へとつながる。
「もともとロールモデルとして賃貸モデルを増やすっていうのもあって。移住するために空き家を購入するのは,ハードルがめちゃくちゃ高い。江田島市では,賃貸できる空き家,古民家で生活できる場所というのが少ない。物件を掘り出すっていうときに,需要はある」
自身の経験が源となり,そこから思考が広がった。
空き家に滞在する場所を作りたかった。そして,協力隊在籍期間の3年とその後を考えた時に,自分のビジネスの中心を空き家に置きたかった。また,賑わいかつ集まる場所を作ろうと,このような視点があった。
「この場所に根付ける仕事として,(協力隊着任当初から)始めるつもりで考えていました」
しかしながら,プロジェクトのための土地と建物を自費で数百万円投じて購入,また,着任1年経たないうちでの行動にも感服させられる。
「(自費での初期投資については)追い込みたい性格というのも確かにあって。ここでいったん,やらなきゃいけない,という気持ちですね。でもいきなり,勢い付きすぎたかなとか(笑)。勢いで行くしかないかと。でも3年という限られた期間で自分のやりたいことを実現するとなったときに,あそこが何かピピっと来たので」
柔和な表情を見せながらも,その言葉には,プレッシャーではなく,自分で追い込みたい,やらなきゃという,前向きの強い意志が込められていた。
この場所に,お店ができたら面白いだろうなとアイデアが出てきた
「最初はそんな感じを含めて,拠点になる場所と,住める場所というのが,どっちもできそうだなというのが今回の,サイズ感がある物件だった。そういうところを含めて,いいと思って(この物件に)決めたと。地域おこしとして考えた時,この場所に,お店が出来たら面白いだろうなとアイデアが出てきて。3年の任期で,どう持っていけるか,育てていけたらと,思ってます」
もともとは,住むところとして空き家の整備を考えていたが,その地域の賑わいの場所として栄えていけるようにできたら,との思いへ移っていった。
「最初は,活用することしか考えてなくて,僕と同じ企画振興課(広報や移住相談の担当課)の先輩や,都市整備課(空き家対策全般の担当課)の人たちと現地の空き家を回るうちに,いろんなアイデアが出てきた形ですね。こういうことをやったら面白そうだなとか,そこで何かできないかなとか。そういう流れが生まれていきましたね」
切串の物件と巡り合うまで
「昨年の6月頃,空き家の実地調査を都市整備課と一緒に回っているときのことでした。自分がポスティング(※)をしてた家だったんです。その時点で先に見てて,ここは物件的に面白そうだなと。で,ポスティングの反応があった」
(※空き家対策の一環で,外観などから空き家と思われる物件に,空き家登録の案内とアンケートを同封したもの)
切串の物件の第一印象については,
「母屋があって,離れがある。庭があって畑もある。小ぢんまりとはしてるんですけど,面白そう,いいんじゃないかなと。ロケーションとかの課題はあるんですが,物件の状態はすごい良かったんですよ。あまりいじらなくてもいけるなというのはあったんですね。母屋のほうは大幅な手入れはいらなくて。離れのほうは外装とか改修するところが多いんですが。ロケーション的にベストなのは,“開けた眺めのいい場所”で,この物件から直接そういう眺めは望めないけど,周りの環境は港に,そして海も近い」
「港周りの拠点化」がEnishiのプロジェクトコンセプト
「自分がいるプロジェクトチームのEnishi(※)のコンセプトとして,“港周りを拠点化“させていこうというのがあって。江田島市外からの入口として,港に賑わいを作ろうと。外からの人が入りやすいんじゃないかなと,そういうのが最初にあって。今の物件は港から近くにあるんで,その部分でもいいかなと」
(※プロジェクトチームEnishiとは,
“広島県江田島市で地域おこしの活動をしているEnishiというグループです! メンバーは地域おこし協力隊やSUPインストラクター、webディレクターやアイリストなど、幅広い経験をもったメンバーが集まっています。 主に空き家の利活用をメインとしていて、今年の6月から活動を開始しました!”
[クラウドファンディングサイトCAMPFIRE掲載のプロフィールより引用]
今回のクラウドファンディングに先行する形で2021年12月にオープンしたコワーキング・イベントスペース「PonteTAKATA」は,能美町高田の古民家を活用して,前述のコンセプトから生まれた。
PonteTAKATA(リンク先…https://camp-fire.jp/projects/506976/activities/340772)
▼"Ponte"はイタリア語で「橋」を意味し,広島,江田島市民や移住者など,江田島市に関わる人の架け橋になりたいという願いが込められている。古民家の味わいを残した内装ながらも,高い天井と採光の調和が現代的で心地よい。
高田港,切串港の次は,他にも構想があるのだろうか。
「他の場所の今後についてはまた探していこうと思ってます。また,港ではないんですが,昨年,市内の高校生と活動した物件が大柿町にあって,そこもまた使わせていただけるという話なんです。海とは離れるんですが,市役所にも近く商店も周りにあって利便性が高い。また,入口の通路は狭いけど,使い勝手のよさそうな空間なので,デザインの仕方次第では,おしゃれにできるかなと思いますね」
物件までの道や入口が狭いというのは,古い家が多い江田島市内ではよく見られる事象で,一般的にはマイナス要因である。そこがおしゃれにできるとは――全く想像がつかないだけに,期待せずにはいられない。
江田島市の仕事ならではの苦労も
蛇草さんの前職は,都内での空間デザイナー。店舗やオフィスを手掛けてきたが,江田島市での仕事に違いはあるのだろうか。
「都内ではゼロからつくることもありますし,居抜きからいじるということもあります。基本的に一番違うのは,東京は普通のビルの中の一角というところなので,木造でないパターンばかり。古民家ほど複雑じゃない。江田島市では木造をいじるということで,どこの構造を残しながら施工してよいか,わからないところが多い。今回,PonteTAKATAでやってみて,梁や柱の状態,抜いていい場所とか,そういうところは僕もわかってない部分があるので,大工さんと話しながら,やっていきましたね」
古民家を改修するというのは初だったという蛇草さん。
「(古民家をつつくのは)やってみたかったことで,ちょうど良かったと。ゆくゆくは触ってみたかったが,こういう形で実現するとは思わなかったですね」
蛇草さんの視点で江田島市を見回すと
「まず切串に限って見ると,基本的なところで飲食店が少ないなと。店舗が,ぽつぽつとあるような,そういう印象がありますね。”ここへいけば賑わっている”そんな場所があればいいのにと思いますね。そういう面ではさみしい感じがしますが,広島市からはフェリーで30分,470円と安い金額で来られる。また,サイクリストの人たちも多い。この港を起点に,江田島市を楽しむ場所になれれば。その意味で,ここを手掛けるのがいいなと」
▼江田島町宮ノ原から切串へと続く,県道297号(石風呂切串線)からの眺望。
下り坂の向こうに広がる,開放感いっぱいの海と島に魅了される。
「それに海がきれいだなと思ってて。のんびりした感じがあって。僕的には,島の空気感がいいなと思える場所だった。コンビニが無く,店舗の出店も少ないですが,もう少し何かがあれば,市外の人も,まず最初に切串に来て,ここからまた他の江田島市内に行くとか。こういうの,いいんじゃないかなとか」
「臼あったよね」「餅つきしようか」から始まる交流
切串に新しい交流の拠点が完成する前から,こんなエピソードも伺うことができた。
こちらはインスタグラムアカウントでの,年明け早々の様子。石臼のまわりに,楽しそうに集まった人たちの笑顔が印象的だ。
https://www.instagram.com/p/CYQw_2XlDr5/
▼kirikushi_coastal_villageインスタグラムアカウント2022年1月3日更新分より
プロジェクトの空き家に石臼があった。その石臼を見た人から「臼あったよね」「餅つきしようか」という流れに。切串おかげんさん祭り(※)のメンバーと,蛇草さんがいま暮らしている能美町の有志たちとで餅つきをすることになった。
(※おかげんさん祭りは,令和元年夏に行われて以降,新型コロナウイルス感染拡大防止のために,翌年から中止となっている。これは開催準備に向けての祭りのメンバーが集まったもの)
きっかけはひとつの石臼ではあるが,切串を想う人たちがこういう形で集う様子を見ていると――。
仕事の枠を超えて,地域へと積極的に関わっていく蛇草さんの姿とその道筋は,もしかしたら誰もが予想しなかった未来を描くのではないか。
「みんなで育てて発展していく場所」とは
「今回のプロジェクトの“Kirikushi Coastal Village”は,クラウドファンディングで集まったお金で即完成というわけではなくて。工事も第1期,第2期と,長いスパンでやっていくと思う。例えば,新しい人(参加者)が来て,その人のアイデアでまた変わっていければいい,流動的な形。活用法を最初から決めるのではなく,柔軟な感じで多様性を持たせたい」
それは蛇草さんが,いろんな事業者さんと話をしていって感じたことだった,と語る。
「みんなで集まって長く育てて,発展していく場所にしていきたい」
以前訪れたときとはまた姿が変わっている,進化している。そんな変化していく場所。
完成させたら終わり,にはしない。長い期間をかけて,みんなで育てる。
愛着のある場所として,発展させていく――。
このような思想は,交流拠点を作るにあたって,江田島市内ではおそらく初の試みではないだろうか。
拠点が年月を経ることで地域に愛されるというのは,在住者,移住者,観光客いずれもが,世代を超えてつながる仕掛けだ。店舗入居例区分け図の一部が完成されていないのも,将来を見据えて,参加者の希望や柔軟な対応があるのは想像に難くない。
「プロジェクトというのは,一人でやるものではない。地域の人が集まって,興味がある人たちが集まって,一つの形ができればいい。長い期間で形になれば,そういう場所,愛着のある場所に育っていければ。そういう場所ができればいいなと」
なぜクラウドファンディングという形式が選ばれ,この物件でなくてはいけなかったのか――。
蛇草さんの結びの言葉を,ここまで読んだ皆さんにもぜひ,受けとめていただきたい。
(記事作成:2022年1月)