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《ETAJIMA Fan Info》
能美町中町にある,明治26年創業の津田酒造。
「島の香(かおり)」「月夜の宝島」の銘酒で知られ,令和のいまもなお,多くの人々に飲み継がれる味わいを届けている。
▲時代と共にあゆんできた,懐かしく,温かな佇まいの店舗。
▲手書きのポップ,華やかな色合いのプランターが,やさしいおもてなしの心を感じさせる。
▼昭和四十一年から三代目となった,代表取締役社長・津田紘吏(ひろし)さん。
江田島ファンネットが取材に訪れた2022年6月17日。
かつての酒蔵に,クラフトビールの醸造所が設置されたことを受けて,この日は神事が執り行われた。
▲クラフトビール製造全般は,酒類卸の株式会社ヒラオカ(広島市)が行う。
前列右から,ヒラオカ代表取締役社長・平岡哲也さん,専務取締役・平岡保幸さん。
前列左は江田島荘総支配人・阿部直樹さん。クラフトビールは江田島荘や酒類販売店などに卸され,江田島市の新たな観光資源となる。
▲「安心安全で,おいしいものを,地域の皆さんに届けたい」神事の後に,平岡哲也さんによる挨拶。
平日の午前,近隣の小学校グラウンドから,児童が活動する声が聞こえてくるなか,「ここで,こういうものを作ってるんだと子供たちにも思ってもらえたら」と,将来の担い手にも期待を寄せた。
▲写真右から,平岡保幸さんと平岡哲也さん。津田紘吏さんと,津田真由美さん。
江田島市にクラフトビール醸造所が誕生するまで
経緯は,江田島荘が開業する2年前へとさかのぼる――。
現在,江田島荘の1階宙(そら)ラウンジにある和紙作品には,大柿町出身の漆工芸家・六角紫水が考案したとされるキリンの図柄が使われている。ホテルの「地域と共に成長する」コンセプトの具現化に,江田島市が持つコンテンツの見直しなどを関係者との協働で行った成果の一つである。
▲和紙作品底面にあるキリンビールのロゴマーク
また,キリンビールのロゴデザインを手掛けた六角紫水を,未開拓コンテンツとして活かすべく,キリンビールとの連携検討が始まった。
キリンビールの技術支援により江田島市のビールが造られ,江田島荘にも販路を担う図式が描かれる。
江田島市内の幾つかの事業者に,ビール製造を打診するが,出資面や後継者不足から,色よい返事は得られなかった。そんな中,呉信用金庫の紹介で,広島市の酒類卸の株式会社ヒラオカが,2021年早春に参画を決めた。
津田酒造の空き施設を活用してクラフトビール醸造所が誕生するまでの道のりを,津田酒造とヒラオカにお話を伺った。
㈱ヒラオカ:代表取締役社長・平岡哲也さん
津田酒造㈱:代表取締役社長・津田紘吏さん
進行:江田島市政策推進課(企業誘致などの担当課)・川上さん
聞き手:江田島ファンネット
――醸造所完成まで,どれくらいの期間がかかったんでしょうか。
津田「2022年2月から取り掛かり,4か月半くらいです。酒蔵として使われていたものを,宮司さんに来てもらって片づけました。ここはコメを蒸すところだったんです。大きな釜がありましてね。古い用具をどけるのに全部お祓いをしてもらいました。それがすんで2月10日前後くらいに,お祓い済みのものを全て,中のものを撤去して改造を始めたんです。
外観は綺麗に塗ったりしましたが,全然つついてないんです。入口の,青い塗りの木の扉はシャッターになりました。
1800リッターくらい入る釜や,はけ口なんかも全部下へ埋めて平らにして,醸造所の工事を始めたんです。
▲クラフトビール醸造所に変わる前の酒蔵の様子。奥には大きな羽釜が見える。
酒造りのときは,外への煙道は下から続いて,煙が出るところだったんです。それらも全部潰しましたが,今回クラフトビール造りの釜から出る湯気を,煙突から出るようにしたらしいんです。だから少し,ちょろちょろっと煙が出るかもしれないんですよ」
――日本酒造りからクラフトビールに変わっても,同じような光景が見られるかもしれない。この煙突は,これからも生き続けるということですね。
津田「ガスなんで,そんなに出んかもしれんですよ。まあ,少しくらいは」
▲酒蔵から装い新たになったクラフトビール醸造所。
後ろにそびえたつおなじみの煙突は,これからも生き続ける。
クラフトビール醸造所に津田酒造が選ばれた理由
▲ヒラオカ代表取締役社長・平岡哲也さん
――クラフトビールを江田島市で製造するにあたって,施設や場所など,多くの選定要素があったと思います。その中で,津田酒造さんを選ばれた決め手は何だったのでしょうか。
平岡「津田さんの人柄です。より詳しくお話しますと,まずお話を頂戴した流れがありました。そこに津田さんがご協力いただけることになり,地元の方々と一緒に仕事ができるというところに魅力を感じました。
これは本当に,津田さんありきで,場所を決めさせていただいた次第です。
もしそうじゃなくて他に,空いている土地を借りるとなると,なかなか進み辛い話だったかもしれません」
――人があって場所があって,ということですね。
平岡「コンセプトがあって,人が集まって,そこに津田さんがご協力していただいて。我々は参画させていただいたという流れでした。おかげさまで,本当に実現できたというところですね」
川上「地方で活動する際,地域の方々の協力は不可欠ですね。そのイメージが出来上がっていたのは大きかったと思います」
平岡「クラフトビールを作りたいだけではなく,多くのことを考えていました。我々は広島の業者ですが,江田島市の方々と繋がりながら,いろんな仕掛けをしていける魅力が大きく感じたので,着手を決めたんです」
――(津田さんに伺う)ヒラオカさんと最初に,お会いになった印象はどうでしたか?
津田「ヒラオカさん自体は初めてなんですが,この方のおじいさんは酒の卸組合でよく存じ上げておりました。だから,初めてという感じは,なかったんです。うちは,空いたとこで使える場所があれば,どうぞ使ってください,皆さんのためになるのならと」
川上「もう縁があったんですよね」
平岡「孫みたいなもんですよね」
津田「後から話して分かったことで,ヒラオカさんの専務は,私の高校の後輩になるんです。聞くと,醸造所の施工をした工務店の方も同級生らしい。だから,回りまわってみな同じ,関わり繋がりがあったと」
平岡「そこにすごく,縁,運命を感じたんです。最初に聞いたときに,集まった周りの方々の中で,専務の繋がりが結構あったんですよね。繋がりのある同級生が近所に住んでたりと,こういう話ってなかなか聞かないので。ちょうど専務が,江田島市方面を担当してました。その縁で,こちら側のお客さんと繋がっていて。
割とそういう縁が,この話にはあったんです。そして,場所をどこでやるかというところで,津田さんに全面協力していただきました。
津田さんがいらっしゃったから「じゃあ,やろう」と。そういう流れがありました。
また,津田さんは長年,酒蔵をやられてきた経験の中で,ご指導ご協力をすごくいただきまして。本当に感謝しています。
何とか頑張って,ここまで漕ぎつけました。いいものを作って,皆さんに楽しんでいただけるように」
川上「できる限りのことは,我々も協力します」
平岡「本当に,感謝しています。よろしくお願いします」
――古くからの縁が,こうして繋がって,新たな酒造りへと行き着きました。何とも稀有で,素晴らしいお話を聞かせていただきました。本日は,ありがとうございました。
▲麦汁造りや発酵用のタンクが並んだクラフトビール醸造所内部
▲写真左はクラフトビール樽洗浄機
▲中央がビール充填機(写真右:津田さん。写真左:政策推進課川上さん)
クラフトビールは,小規模のビール・発泡酒を職人が作る手工芸(クラフト)の意で,醸造所の設備もコンパクトになる。
早ければ2022年8月に商品ができる予定。
▲関係者の皆さんと醸造所前にて記念撮影。待望の江田島市産クラフトビール,発進までもうすぐです!
“事業者,地域住民,移住者などさまざまな人が関わりあいながら発展する”という思いから,クラフトビール醸造所は『江田島ワークス』と命名されました。
(2022年6月取材)
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【株式会社ヒラオカ】http://www.hiraoka-web.co.jp/
【津田酒造株式会社】https://tsudasyuzo.com/