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《ETAJIMA Fan Info》
前編はこちらから。後半は各ドームの様子などをお伝えします!
▲宿泊ドーム横の青い建物は,管理棟インフォメーションです。
△宿泊を伴わない日帰り利用の方でも,気軽に立ち寄れる場所です。(※2月取材時,保冷庫や内装の一部は工事中)
山下「ベトナムのサンドイッチ・バインミーをここで出す予定です。宿泊客の方だけでなく,ふらっと立ち寄った方にも食べていただけるように」
バインミーは,フランスパンに野菜や肉などを挟んだベトナムのサンドイッチ。江田島市では初登場のグルメに期待大です!
▲5つの各テントに併設された,専用食事・水回り小屋。手作り感ある風合いの外観にも注目です。
1号棟の「FINCA」とは,何なのでしょうか……?
山下「ここはヘミングウェイですね。ドームテントに「老人と海」を置いています。テレビとかは無いんですけど」
△海のそばで読書。ゆっくりとした時間を過ごすのも,Sugosならではの楽しみ方です。
山下「それぞれにコンセプトがあって,海にまつわるものが由来になっているんです。家族連れで来られたときに,絵本や本を読んでもらいたくて。1棟目がヘミングウェイ(注1)なんです」
(注1)アメリカ出身,ノーベル賞作家のヘミングウェイ。20数年暮らしたキューバは,本島の他に1600余りの小島や岩礁で形成され,沿岸には美しいビーチリゾートが広がります。
キューバのハバナ郊外の邸宅「フィンカ・ビヒア(Finca Vigia)」は,代表作『老人と海』の執筆場所として有名で,現在は博物館となっています。小説の舞台となった漁村・コヒマルは,ハバナより10キロ先に位置し,観光名所で人気のスポットです。
△テントから見える穏やかな海は,のどかな漁村と評されるコヒマルに通じるものがあるのかもしれません。
△狩猟好きで知られたヘミングウェイ。そのモチーフが室内に溶け込むように,さりげなく使われているところにセンスの良さを感じます。
▲2号棟はNOA。
山下「NOAは,ゴーギャン(注2)ですね。他にもトーベ・ヤンソンや,バーバパパがあります」
――名前がそれぞれ違ってて,内装も変えているんですね。
(注2)NOAは,フランスの画家・ゴーギャンのタヒチ滞在記「NOA NOA」から名前が採られ,インテリアや内装にそのモチーフが活かされています。
想像を駆使した手法で描くゴーギャン。実体験でなく脚色を施した「NOA NOA」は,彼自身の精神の冒険譚と言われています。色彩で表現した思想が,世間から理解されない自作品を,文章で伝える方法を選んだのです。
「NOA NOA」の邦訳は岩波文庫版以外に,ちくま学芸文庫版「NOA NOA」もあります。ちくま版は本編に併録された草稿を読み比べることができ,原稿の編集を依頼した象徴派の詩人・批評家のシャルル・モリスの手で,読み物として洗練された過程がうかがえます。
どの名前も,一読しただけでは正解が想像できない,クイズのような趣向がユニークです。BYUCCAグランピングの,それぞれの名前の由来を知ることは,芸術作品の寓意を汲むことと近似しているのかもしれません。
▲3号棟はBELLA。
映画「グランブルー」の舞台となった,イタリアのシチリア。その地の,イゾラ・ベッラ(Isola Bella)に由来し,グランブルーにちなんで,海に潜るイメージのインテリアになっています。
イタリア語で「美しい島」の意味をもつIsola Bellaは,海岸と砂州でつながった小さな島。異なる立地ではありますが,早瀬大橋のたもとは,蹴り小島や王泊などの自然に恵まれ,江田島市ならではの「美しい島」と呼べる景観に違いありません。
また,イゾラ・ベッラの雰囲気は室内だけでなく,屋外の専用ジャグジー付きで,贅沢体験が楽しめます!
▲満天の星を見ながら,屋外ジャグジーでくつろぐ……。このロケーションだからこそできる至福のひとときです。
4,5号棟は,小さなお子さまにも親しみのある題材が登場します!
▲4号棟のKLOVは,フィンランド湾に浮かぶクルーヴハル島(Klovharun)から名前が採られています。
ムーミンシリーズの作者として知られる,フィンランドの画家で小説家のトーベ・ヤンソン。
晩年に,クルーヴハル島に小屋を建て,以降20年以上,春から夏の間を過ごしました。そして,別荘兼アトリエとなった小屋で,ムーミンシリーズは書かれました。
4号棟のインテリアは,この小屋に合わせたもので,フィンランドの由来から,サウナが設置されています。
▲専用のバレルサウナ(樽型サウナ)付きで,本格的な“ととのう”体験を満喫!ロウリュ(熱したサウナストーンにアロマ水をかけて発生する蒸気)が室内に循環するのに適した構造なのだそうです
KLOVは他の棟よりも,桜の木が茂る奥寄りに建てられ,クルーヴハル島が持つ海の印象と,フィンランドから想起される森のイメージを両立させています。立地の雰囲気をうまく取り込み,専用食事・水回り小屋にも情緒を醸しだす演出がお見事です。
そして,BYUCCAグランピング最大の10メートルドームテント,5号棟のANETTE。
高い天井の下で,コタツを挟めるくらいに間をとり,ベッドが並んだ様子は,壮観の一言に尽きます。
▲最大定員10名でも宿泊可能。気のおけない仲間たち,多世帯での利用など,使い方・泊まり方の選択肢が広がります。
山下「ここは,山下明生(はるお)さんのバーバパパをコンセプトにしています。バーバパパの原作の,アネット・チゾンさんにリスペクトして「アネット」としてるんですよ。
山下明生さんは,バーバパパのほかにも,海にまつわる絵本をたくさん執筆されてて,それを全部寄贈してもらったんです。ちょっとしたものですが,山下明生文庫もあります」
▲カラフルなじゅうたんは,ドームのコンセプトが活かされています。
▲冬場には欠かせないコタツに,こんなサプライズも。形とピンク色からの連想で気づく仕掛けが面白いです。
△殺風景になりがちな水周りにも,細かな心配りがありました。
△使い勝手の良いクッションと一緒に。山下明生さん訳書のバーバパパと童話が読めます。
▲ちなみに,山下明生さんの代表作「島ひきおに」(注3)の引島は,Sugosからは離れていますが,大君のオリーブファクトリー周辺から見ることができます。
(注3)1937年東京都生まれの山下明生さんは,幼少期を能美島で過ごされました。出版社で児童書の編集を手掛け,自身も童話などの創作を行っています。代表作の「島ひきおに」は,人間たちと一緒に遊びたい鬼が,漁師の出まかせの「島を引っ張ってくれば一緒に暮らせる」に騙されて島を引いてくるものの,一緒に暮らす人は現れないという,考えさせられる内容のお話です。
「島ひきおに」は国語の教科書にも載り,続きを求める声が多くの児童から出たそうです。決して明るくない作品ながらも,読書対象の幼い世代からこの結末を受け入れる声が出たことは,山下明生さんの作風と締めくくりを,たくさんの方々が望んでいたのでしょう。
▲各テントは焚火台とバーベキュースペースを備え,日没後の忘れられないひと時を演出します。
――江田島ファンネットでは,江田島市から遠く離れて暮らしている方向けに,今のまちの様子をお伝えしています。とくに,大柿町にかつて住まわれた方々には,長浜海岸や,早瀬大橋のたもとに昔は通園地があったことなども含めて,ひときわ懐かしい場所であろうと思います。
ここ最近は,旅行への機運も戻りつつあり,陸路からの入口である早瀬大橋や,この場所へ来られる方も多くなってくるでしょう。
そうした中で,江田島ファンネットをご覧いただいている方々に,メッセージをお願いします。
山下「Sugosは,大切な人とゆっくり時間を過ごす場所として,江田島市内へと続く,入口となる象徴的な早瀬大橋のたもとに生まれた新しいスペースです。ここは,私の物でも,会社の物でもなくて,みんなのものなので,オープンに捉えていただきたいと思っています。
潮風や静かなさざなみの音,満点の星空が広がる,柔らかな時間の中で,ゆっくりくつろいでいただきたい,ここから江田島市の魅力を全国へ発信する拠点としたい,という意味が込められています。
地元の人や産業をつないで地域の価値を高め,一過性ではない課題解決に取り組みたいと考えています」
――今や全国ネットのテレビ番組や映画で,商品や名前を見るのが日常となったアクアガレージ。江田島市発のアパレルブランドであることが誇らしく,またこのたびのSugos誕生は,市内外問わず楽しめる場所として,本当に素晴らしいことだと思います。
今回は,貴重なお話をたくさん伺うことができました。
ご多用のところ,お時間をいただきまして,ありがとうございました。
(取材年月:2023年2月)
【企業情報】
〒737-2212 広島県江田島市大柿町大君2389−2
・アクアガレージ(有限会社伊勢屋コンサルタント)
・Sugos
・BYUCCAグランピング
・BYUCCAグランピング インスタグラムアカウント
▲BYUCCAグランピングのロゴは,ファビコン(ブラウザで開いたときのお気に入りアイコン)を想定して,シンプルな形になったのだそうです。スマホやネットで検索する時代ならではのデザインです。
ロゴに,星とドームを表現したのは,
山下「『グランピングで楽しみたいこと』を調べた全国的なアンケートの1位が,天体観測だったんですね」
江田島市内に住んでいると見慣れた日常でも,利用者の方にとっては,得難い体験であることに気づかされます。
各ドームのモチーフからロゴデザイン,アクティビティに至るまで,細かい配慮があり,多くのことを学ばせていただいた取材となりました。
BYUCCAグランピングは,江田島市のグランピング施設では2番手で,市内外の競合で独自色を打ち出すのは至難の業であるはずです。そんな状況下でも,グーグルマップの口コミやインスタなどの反応はどれも高評価。
ホームページや予約サイトの写真だけでは,その良さの一部しか伺い知ることができませんが,とにかく詰め込まれた情報量とその密度が濃い!訪れた方々をいかに楽しませるか,その目配りの数々を,記事を読んでいただいた皆さんと共有できれば幸甚です。
江田島ファンネットの記事で過去最大級の分量となりましたが,それでも言葉と写真だけでは100パーセント伝えきれないのが本当に残念です。その素敵さをぜひ,ご覧いただいている皆さんも,体験してみてください!
【BYUCCAグランピングに泊まる前,または,帰ってからまた読んでおきたい6冊】
※6冊とも江田島市の図書館で借りられます。予約状況および所蔵館はタイトル検索でご確認ください。
・もっと知りたいゴーギャン(六人部昭典/著,2014年09月 河出書房新刊)
・老人と海(光文社古典新訳文庫 ヘミングウェイ/著 小川高義/訳,2014年9月 光文社刊)
・ムーミンの生みの親、トーベ・ヤンソン(トゥーラ・カルヤライネン/著 セルボ貴子/訳 五十嵐淳/訳 2014年09月 河出書房新社)
・たのしいムーミン一家(トーベ・ヤンソン/作・絵 山室静/訳,1998年10月 講談社刊)
・おばけのバーバパパ(アネット=チゾン/さく タラス=テイラー/さく やましたはるお/やく, 1989年9月 偕成社刊)
・山下明生・童話の島じま 3(山下明生/作,2012年3月 あかね書房刊)※「島ひきおに」所収